デロリアン新伝説、ここに開幕

昨年末開催の「横浜ホットロッドカスタムショー」にて、そのデロリアンはベールを脱いだ。
だれもが言葉を失うほどのワイドボディの奥には、「市販のリムじゃ物足りない!」と、
ワンオフで作られた18×10.0と19×15.0の3ピースが収まっていた。
既存の価値観に収まることなく、未来への突破口を開いた異端児の物語。熟読必至

 オトナになって、金を手にしたときに買うべきクルマは何か? だれもが目ん玉ひんむいて振り返る超高級スポーツカーか? リアシートでふんぞり返る社長なセダンか? それがココロの底から欲しかったモノなら止めはしないが、ガキのころからクルマ好きだった人間を自称するのなら、汚れを知らぬ時代に恋い焦がれた、初恋の一台を選ぶのがリアルなロマンチズムというものだ。

 今回の主役・梶智晴サンは、愛知にて「ラダー・インターナショナル」というクルマ屋を経営している。となれば、大体のクルマを引っ張ってこれるポジションにあるワケだが、彼が一途に追い求めたのは今から40年も前のアメ車、正式名称DMC 12、通称デロリアンだった。

「修学旅行で東京タワーに行ったとき、そこの駐車場で初めて実車を見たんですよ。クルマの存在自体は映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー(以下BTT
F)』のヒットもあって知ってたけど、それ以上にホンモノはヤバかった(笑)。

 で、実際にクルマを買ったのは約4年前の話。アメリカで見つけた後期型を手に入れた。ところが、アメリカで見たときは相変わらずカッコよかったんだけど、通関から出てきたときは壊れて動かないこともあって、もうゴミにしか思えなくて(笑)。

 それから修理して走れるようにして、しばらくは車高調入れて低くした以外、ノーマルのままで乗ってた」

 そんな梶サンが、なぜ愛車をここまでの世界的衝撃ワイドボディマシンに変身させてしまったのか? きっかけは交換するホイールがなかったからだ。

 ここでちょっと、デロリアンのスペックについても触れておこう。デロリアンは元GM副社長のジョン・デロリアンが、自分の理想のクルマを作りたくて始めた会社“デロリアンモーターカンパニー”によって生み出された奇跡の一台だ。ジウジアーロがデザインしたFRPボディの表面にはステンレスが張られ、そしてアルピーヌA310と共通のV6・2849㏄エンジンをリアに積む、RR方式のスポーツカーという内容だった。

 しかし、映画のように今現在の世の中にタイムスリップしてみれば、馬力はたったの130hpしかないし、ホイールにいたっては貧弱極まりない4H/100の14&15インチ。もうイマドキの軽でも履かないサイズ設定なのだ。

 そうなると、デロリアンに合うホイールを作るしかない。い
っそのこと4H/100もやめたい。ついでにブレーキも換えたいと、相談相手に指名したリスキービジネス・岡田代表との話はどんどん膨らみ、気が付いたら現在の姿になっていたという。

 核となるホイールは、アメリカのホイール業界にぶっといコネを持つ福岡・KRZインターナショナルに製作を依頼。どうせワンオフするならオリジナリティをモロ出しにするべく、ディスクにはランボルギーニ・ミウラの純正ホイールをオマージュした意匠を採用し、気になるサイズは5H/PCD100の18×10・0/19×15・0というマッチョぶりだ。

 そして、この特大リムを覆うフェンダーが次の問題として浮上してくるが、レア車すぎてキットは売ってないし、ステンレスのボディとどうバランスを合わせるかといった悩みもある。ここで前述の岡田サンが編み出した作戦は、1・5㎜厚のアルミ板を絞って4枚のフェンダーを作ること。一般的に使用頻度の高い1㎜厚のアルミでなく1・5㎜を選択したのは、「フェンダー成形後、キズあとを消してステンレスボディのヘアラインフィニッシュとテイストを合わせる都合から、削りシロのある厚めの板を選ぶ必要があった」と、岡田サンは秘策の理由を話す。

 最後にエアサスとフレームのCノッチ加工による極限スラムドフォルムを手にすれば、令和の時代にフィットしたスタンスとして誇るべき一台に。

 梶サンは言う。

「別に、BTTFの映画シリーズもワイドボディのトレンドも意識してません(笑)。自分が欲しかったデロリアンを、ただ自分が思うカッコいいフォルムにしたかっただけだから」

 確かに深リム特集にふさわしい案件ではあるが、そこに至るストーリーはリムではなく、あくまでもクルマ優先、自分優先。この伝説を超えるデロリアンなど、きっともう出てこない——。

 

 

 

ワンオフフェンダーの恩恵を受けて、車幅は大台超えの2130mmに! エアサス&フレーム加工で1003mmにまで下がった全高とのバランスで、圧倒的に低くてワイドな2020年型デロリアンは完成へと至る。これはもうBTTFの世界観を超えたと言っていい。

実は、本誌姉妹誌カスタムCAR2020年2月号掲載以降も進化の手は止まらず、前後スポイラー、サイドステップ、そしてオーバーフェンダーまでも作り直されているという驚きの事実が発覚! 確かにFスポイラーからはゴツさが消え、サイドステップは絞り込まれ、ボディになじむシルエットになっていた。

 

今回のプロジェクトのスタート地点となったワンオフホイールがコレだ。純正の4H/100・14&15インチから5H/100・18×10.0/19×15.0と、前後とも4インチアップがなされ、それをランボルギーニ・ミウラへオマージュを捧げるデザインで包み込む。なお、汎用性のある5H/114.3でなく5H/100にしたのは、純正のボルトを最低1本は使いたかったからなのだとか。

 

フェンダーの素材は1枚ものの1.5mm厚アルミ板。それを専用工具を使って曲げてこの造形美に到達させるのは、職人技以外の何物でもない。これにて車幅は2130mmとなり、ストックの1988mmから片側71mmのボリュームが加わったことになる。

 

昨年末のデビュー時のダクト形状からディフューザー形状へと変化を遂げたリアアンダースポイラー。3本マフラーの配置パターンに変わりはないが、ダミーから本物になったこともあり、φの大きさに若干の変更が加えられた。

エクステリアのアップデートに合わせ、ダッシュボードをブラウン&ブラックレザーで全面張り替えしたブラウンを使ったのにも理由があって、デロリアンのプロトタイプが使用していた色に由来するのだそう。

シートはスパルコR333をベースに、ブラウンのアルカンターラとブラックのレザーで張り替え完了。ヘッドレストに刻むDMCのロゴ、ホワイトのステッチ、往年のフェラーリを思わせるライン追加、座面のアンコを抜いて高さを整えるなど、ディテールへの配慮も万全だ。

RR方式のデロリアンだから、フロントフード下にはエンジンではなくエアサスのシステムを配置する。とはいえ、それらをインテリア同様の素材を用いてヒドゥン。機能を自慢するよりも、質感を高める道を選ぶ。

 

☆パーツ構成

●オーナー:梶 智晴サン●1981年式DMC-12●エクステリア:リスキービジネス・ワンオフオーバーフェンダー(出幅片側71mm、1.5mm厚アルミ板使用)/ワンオフアルミフロントスポイラー/ワンオフアルミサイドステップ/ワンオフアルミリアアンダースポイラー/ワンオフアルミトランクスポイラー(クラッシュカーボンシート貼り)/3本出しマフラー●ホイール:KRZインターナショナル・ワンオフホイール(F=18×10.0、R=19×15.0)/ワンオフスピンナー●タイヤ:ピレリ・Pゼロ(F=225/35-18)、ハンコック・ヴェンタスV12エボ(R=325/30-19)●足回り:KRZインターナショナル・エアサスシステム(F=エアバッグ+ショックアブソーバーリロケート、R=キャンオーバー)、エアリフト・マネージメントシステム、フレームCノッチ加工●ブレーキ:KRZインターナショナル・ブレーキシステム(F=デロリアンロゴ入りアルミ6ポット+355mmローター、R=デロリアンロゴ入り4ポット+328mmローター)●インテリア:スパルコ・R333シート、ワンオフシートレール、天井/ダッシュボード/ドアパネルブラウンアルカンターラ&ブラウン/ブラックレザー張り替え

 

製作ショップ

source:ラダー・インターナショナル0561-42-5534 http://www.rudder24.com、リスキービジネス 052-890-3206

spl thanx:クルーズインターナショナル 092-928-6731 https://krz.cc

 

photo:Aki Hirano

text:Akio Sato(rsf)

 

 

Stance magazine#40巻頭特集 DEEPRIM DOPEZONE収録